表紙の説明

 表紙は,光軸収差と色収差を補償する四象限X線移相子の写真。

 透過型X線移相子は,1991年に,平野,石川,菊田らによって開発され,現在,世界中の放射光施設で活発に応用が展開されている。X線の偏光状態を自在に制御する手段として,この発明は決定的なものであったと言っていい。平野らが,透過型X線移相子の開発に着手したのは,1986年頃であり,強力X線実験室レポート No. 4 (平成60,61年度)に,その萌芽的時期の研究成果を見ることができる。すなわち,透過型X線移相子は,東京大学強力X線実験室を発祥の地とし,世界中に応用が広まっていった研究成果であると言える。

 沖津(強力X線実験室装置管理者),上ヱ地,佐藤,雨宮は,1998年,透過型X線移相子の光軸収差(入射X線ビームの角度発散による位相シフト不均一の問題)に着目し,それを補償する二象限X線移相子,さらに,色収差(入射X線ビームの波長広がりによる位相シフト不均一の問題)をも補償する四象限X線移相子を開発した(東京大学工学部総合試験所年報第58巻 (1999) pp. 231-238.

 コバルトK吸収端(7709 eV)において,ダイヤモンドの結晶からなる,同じ実効厚の一象限X線移相子(一枚の移相子に相当),二象限X線移相子,四象限X線移相子を用いて,水平偏光から変換した垂直偏光の完全偏光度を比較したところ,それぞれ,0.88, 0.96, 0.98 という値が得られ,複数枚X線移相子の収差補償効果が実証された。

 表紙の写真中央に見える四つ連なったリングの中に直径五ミリ程度のダイヤモンド結晶四枚が固定されており,X線は,四枚の結晶を連続透過する。四枚の結晶を透過するX線の強度は,入射X線強度のおよそ13%であった。(評価実験は,高エネルギー加速器研究機構,Photon Factory BL-4A において,装置の調整は,強力X線実験室において行われた)。